開催記録|心理的支援と「科学」──みんなで語り考える科学者−実践家モデル@オンライン

開催記録|心理的支援と「科学」──みんなで語り考える科学者−実践家モデル@オンライン

 先日,『心理的支援と「科学」──みんなで語り考える科学者−実践家モデル』をオンラインで開催しました。

 心理学の国家資格である公認心理師が誕生し,これから心理職に就いていく人はますまる増えると思います。それと同時に,心理学はますます「エビデンスベースド」な方向に舵を切っています。このような動きは,「科学者-実践家モデル」という視点がますます重要になってくることにつながるように思います。

 心理学は,最近でこそ質的研究法(事例研究法)も増えてきましたが,どちらかといえば,統計的なモノの見方が支配する世界です。すなわち,エビデンスの世界(科学者)は,統計的な考え方で人を捉えます。他方,臨床実践においては,どちらかといえば統計的なモノの見方よりも,事例的なモノの見方の方が重要であると考えられます。すなわち,ケアの世界(実践家)では,事例的な考え方で人を捉えます。

 これらを踏まえると,心理学にかかわる者にとって,エビデンスの世界とケアの世界はどのように両立しうるのか,あるいは,それらはどのように架橋しうるのかについて考えることはとても重要なテーマであると考えられます。

 そこで,「科学者-実践家モデル」とはそもそもどういうものなのかという初歩的なところからはじめて,心理学研究と心理臨床について考える時間を作りたいと思い,このような研究会を企画しました。

 以下はそのときの記録です。

研究会詳細

参加者:8名
開催日時:2021年9月12日(日)
開催時刻:14時〜17時30分

発表者

小田 友理恵
──
博士(学術)を取得後,心理職と研究職の二足のわらじで奮闘中。

概要

 アカデミアか現場かを問わず、心理業界の方なら皆さまご存知の「科学者−実践家モデル」。
 でも…そもそも「科学者かつ実践家」であるとはどういうことなのでしょう。
 このモデルはなぜ必要で、どうしたら「実現できています!」と胸を張って言えるのでしょう…。

 第一部では、本テーマについて悩み、研究し、なんとか自分なりに体現しようと奮闘している駆け出しの研究者であり心理職である発表者が、実体験なども交えてプレゼンテーションを行います。
 第二部では、参加者の皆さまとフリーディスカッションを行います。効果的な心理的支援を広く実現し続けていくためのモデルを、さまざまな立場から、みんなで語って考えてみませんか?

当日の流れ

 博論で「科学者ー実践家モデル」について検討していた小田さん。当日はまず「科学者ー実践家モデル(S-Pモデル)」の歴史的変遷を出来事ベースで概観するとともに,その背景にあった議論についても紹介がなされました。臨床心理学と精神医学との境界や,学問的背景のない実践家とそれがある実践家との境界といった境界線問題がS-Pモデルの前史として存在すること,S-Pモデルは歴史的要求に迫られて性急に採択されたため,継続的な議論の必要性や実現可能性への批判は当初から指摘されていたこと,アメリカではS-Pモデルのあり方は検討され続け,現在では大きく3つの類型があることなどが紹介されました。それらの歴史を出来事ベースではなく,物語としてどのように描くのかという興味深い議論もありました。その後,教科書的なあるべき論ではなく,臨床家(実践家)においての実際論として,S-Pモデルがどのように実践されている(あるいは,されていない)のか,実践する上での現実的課題について論じられました。S-Pモデルとは,個人が達成するモデルではなく,「臨床心理学」(業界)として達成すべきモデルではないかという話題も提供されました。

 発表後のディスカッションでは,多様な観点から議論が盛り上がり,当初の終了時間(17時)を超えて議論が行われました。S-Pモデルは臨床心理学にだけ関わる話ではなく,心理学がその知のあり方を考えていくうえでも非常に示唆の富む切り口であろうと思いました。

次回の研究会

 これまでは主に心理学という観点から「心」や「人間」について考えてきました。ですが,本研究会は心理学にとどまらず,ひろい射程をもって「心」や「人間」について考えていくことを目指しています。そのねらいを達成するために,次回は社会教育学をご専門とされる先生にご発表をお願いしています。

 今回のテーマは大きく言えば,「臨床(心理支援)」についてでした。このテーマと関連させて,次回は,「支援とは何なのか」「援助とはどのように違うのか」という切り口でご発表いただく予定です(内容は現時点での予定ですので,変更の可能性があることをご承知おきください)。

 開催日時は12月18日(土)14時〜です。具体的な詳細が決まり次第,改めてお知らせいたします。

 次回も,みなさんとともに考えられることを楽しみにしています。

主催

DigRoom:「心」「人間」「心理学」について考える研究会です。
|本会は,日本心理学会の研究集会等への助成による助成を受けています。