読書感想|こころの医者のフィールド・ノート

読書感想|こころの医者のフィールド・ノート

中沢 正夫(1996).こころの医者のフィールド・ノート 筑摩書房

本書紹介 from 筑摩書房

こころの病に倒れた人と一緒に悲しみ、怒り、闘う医師がいる。病ではなく 人 のぬくもりをしみじみと描く感銘深い作品。

本書感想

 そこには「精神病」を患い,あるいは,その人を支えるために,もがき苦しむ人たちがいる。彼らがどのように生活し,あるいは,彼らとどのように関わっているかを断片的に記述する。それだとわからないことはあるが,それでしかわからないこともある。

 彼らがなぜ「精神病」を患うのか,それほどまでに多くの人が精神病に罹ってしまうのはなぜなのか,その心理学的メカニズムについてはフィールド・ワークではわからない。なぜなら,当人の心理的機序に迫っていないからだ。こころの仕組みは,実験のように統制が取れた条件ではじめてわかるのだ。

 でも,果たしてそうであろうか。心理学的メカニズムとは,こころの中のことなのだろうか。むしろ,こころの仕組みとは,人がどうやって人と関わり,暮らし,生きていく,その様を知ることそのものではないか。そう考えたとき,フィールド・ワークは,心理学メカニズムを知るための大事な方法であり結果である。

 本書は「精神病」のメカニズムについて教えてくれる。もちろん,ホルモン分泌とか,脳機能とかはわからない。けれど,それとは違った「精神病」の側面を伝えてくれる。「精神病」とは,心の病でも,精神の病でも,その人のせいだけで罹る病でもない。「精神病」を知るには,その人の生活を,その人の周りの生活を見なければならない。