読書感想|科学の剣 哲学の魔法

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池田 清彦・西條剛央(2006).科学の剣 哲学の魔法──構造主義科学論から構造構成主義への継承── 北大路書房

本書紹介 from 北大路書房

池田は,ネオダーウィニズム乗り越えのため,構造主義生物学探求の中で「構造主義科学論」を生み出していった。15年間無視され続けられたその発想を継承し,西條は「構造構成主義」をうち立てていく。世代の架橋となる2人の対話を収録。メタ理論をどう発想しどうつくりあげてるのか。軽妙な語りの中にエッセンスが詰まる。

本書感想

「哲学系の本はありますか?」心理学の学会大会で北大路書房のYさんに尋ねてみました。

「心理学の大会なので心理学の本しか持ってきてないと思うけどなあ…」と苦笑しながらも探していただき,紹介していただいたのが本書です。

買ってしばらく放置していたのですが,改めて表紙を見て驚きました。著者の一人は池田清彦。ホンマでっか!?TVの左端に座っているおじさん(失礼!)です。池田先生は生物学者。まさか心理学系の本に登場するとは思いもしませんでした。

「なぜ生物学の池田先生が?」と思っていたのですが,本書を読んで納得。構造構成主義の土台となった科学論,構造主義科学論の提唱者が池田先生だからでした。

池田先生が提唱した構造主義科学論とは科学を「真理を追求する営為ではなく, 何らかの同一性により, 現象を説明する営為」と捉える考え方です。簡潔に言えば,科学は真実を追求しているのではなく,ある枠組みから現象を説明しているだけですよと考えるということです。

これを発展させて,「現象学,存在論,認識論,記号学,構造論,科学論,といったそれぞれの領域の諸成果を人間科学の原理として有機的に統一したのが構造構成主義」です。簡潔に…言えないので,詳しくはwikipediaをご覧ください。それでもあえて簡潔に言えば,ある枠組みは目的=関心に応じて人間が作る(=構成)もので,現象そのものを大切にしましょうという考え方です。ちなみに,構造構成主義をベースにして書かれたのが『感染症は実在しない』(岩田健太郎)ですので,そちらを読んでみてもいいかもしれません(以前ブログも書いていますのでよければご覧ください)。

この小難しい構造構成主義を提唱した人はもう一人の著者である発達心理学者の西條剛央です。すなわち,本書は構造構成主義という最新のメタ理論の提唱者=西條剛央と,その礎となった科学論の提唱者=池田清彦の対談本でした。

対談本は読みやすくて面白くていいですね。重要なことがさらっと書いてあったり,専門書では書けないようなことがふわっと話されていたり。専門書を読み込むためのヒントが散りばめられています。

本書を片手に「構造構成主義とは何か」や「構造主義科学論とは何か」を読む。すべてが出版された後だから出来る贅沢だなあと思いました。

ところで,理論系の本は「〇〇とは何か」というタイトルが多い気がします。〇〇の正体を明かすのが理論だ,と考えられているのかな,だから「〇〇とは何か」というタイトルになるのかなとふと思いました。