読書感想|FBI心理分析官

読書感想|FBI心理分析官

レスラー, R. K.・シャットマン, T 相原 真理子(訳)(2000).FBI心理分析官──異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記── 早川書房

本書紹介 from Hayakawa Online

被害者の体の一部を噛み切る殺人鬼、バラバラにした死体で性行為にふける倒錯者……彼らを駆り立てるものは何か? 当時FBI行動科学課の捜査官だった著者が、異常殺人者の心理を緻密に分析し、プロファイリング(犯人割り出し)の過程を克明に再現する。出版と同時に読書界を席巻した戦慄のミリオンセラー。

本書感想

 事件担当者が語る,異常殺人者の真実。といった本でしょうか。米国で起きた実際の殺人事件に関与した経験から,異常殺人事件の背景・心理を解き明かしていきます。

 かなり簡略化して言えば,「異常な空想の実現化の試み」が連続殺人の元凶であり,そのような異常な空想は幼い頃の経験によって培われ,ほぼ一生治ることはないことを現場経験をもとに述べています。

 その是非はおいておくとしても,一心理学徒として驚かされるのは,心理学(あるいは,行動科学)が現場にきちんと貢献できていること,それが社会で一定の信用を得ていることです。私が知らないだけで日本でもそのような実態があるのかもしれませんが,少なくとも米国ほどではないのではないかと思っています。

 そして,日本でなぜそのように心理学が活躍できないのかについては,「心理学が現場を見ない」ことに一因があると感じました。本書の随所で出てくるように,著者は現場を詳細に見て,足を使って,データを収集し,それをもとに事件を考えていきます。現場・現象をしっかりと観察することからデータ分析を始めているわけです。

 一方,日本の心理学の現状は,「質問紙調査をする」「実験をする」「面接をする」といったことがメインです。「現場を見る」ということはほとんど教えられません。こういった現場を見ずに「加工されたデータ」を見て,現場・現象を判断するという悪しき風習が,日本の心理学の不毛さにつながっているように思えてなりません。

 本書を読むと心理学が,あるいは,プロファイリングがすごいもののように思えます。しかし,心理学やプロファイリングそのものがすごいのではなく,「足を使って」じっくりとデータを見る著者の姿勢が心理学やプロファイリングの凄さの基礎になっているということを忘れてはならないですし,本書はそのすごさを余すことなく伝えているという点でさすがミリオンセラーだなと感じました。