読書感想|夜を彷徨う

読書感想|夜を彷徨う

琉球新報取材班(2020).夜を彷徨う──貧困と暴力 沖縄の少年・少女たちのいま── 朝日新聞出版

本書紹介 from 朝日新聞出版

SNSで寝床を探す少女、大人に騙され売春の網にかかった少女、仲間との関係から窃盗を繰り返す少年……。夜の街をさまよう沖縄の少年・少女たちの姿から、日本社会全体が直面している「子どもの貧困」の実態が浮かび上がる。

本書感想

本書の元となったのは琉球新報(沖縄の新聞)で掲載された連載「彷徨う──少年少女のリアル」。

沖縄の少年少女が直面する問題──貧困,暴力,売買春,薬物,若年出産──を本人たちへの取材を通して紹介している。もともと新聞紙上での連載だったということもあって,約50の話題が話題1つにつき2-3ページで紹介されていく。

そこから見えてくるのは,沖縄の少年少女に突きつけられた”闇”,あるいは”社会のひずみ”。「何も知らなかった」では済まされないような,目を背けたくなるような現実があった。

たとえば,「ストーカーアプリ」の話(p.33)。同じアプリを持っている人同士の位置情報が互いに分かるそのアプリは,相手の位置情報が瞬時にわかるので「遊ぶのに便利」らしい。位置情報をオフにすることは,「友人に知られたくないというサインになり,仲間の信頼を裏切ることにもなる」(p.35)。…友人が目の前にいないときでさえ一挙手一投足を気にしなければいけない。苦痛しかないのではないかと私なんかは思うのであるが,それが「普通」になっている。そしてその「普通」の背景には,実生活での問題──暴力,いじめなど──があることがうかがえる。

本書では取材した少年少女全員を紹介できたわけではない。むしろ,その多くは紹介できていないようである。だから本書はあくまで入り口でしかない。少年少女に突きつけられた問題を,わずかではあるがその重大さを知るための手がかりとして,本書は貴重な状況を照らし出してくれていると思う。

自戒の念を込めて言えば,気になったのは1点。少年少女の言葉を「問題」に引きつけて解釈していないかということである。「大人の方がきっと悪いってことも,子どもたちのせいにされていることって多いんじゃないかって思ってて,10代の子が学校や家の外でどんな気持ちでいるのか知って大人に伝えたい」(p.186)。この取材目的を達成するために,少年少女の言葉をそのまま受け止められていないのではないか,取材目的に沿う言葉として解釈してしまっているのではないかと思ってしまう箇所もあった。

本書は入り口でしかない。だから,この本をきっかけに歩みが進むといいなと思う。本書を読んだ後に以下の2冊を読むと,より少年少女を取り巻く状況への理解が進むと思う。

少女側の背景として:上間陽子『裸足で逃げる──沖縄の夜の街の少女たち
(高知大学学術情報基盤図書館広報誌『あうる』に書評を書かせていただきました)

少年側の背景として:打越正行『ヤンキーと地元──解体屋、風俗経営者、ヤミ業者になった沖縄の若者たち