読書感想|搾取される研究者たち

読書感想|搾取される研究者たち

山田 剛志(2020).搾取される研究者たち──産学共同研究の失敗学── 光文社

本書紹介 from 光文社

政府が推進する政策である「産学連携」または「産学共同研究」。一見、順調に見えるが、残念ながら様々な課題がある。企業側はともかく、大学側や研究者にとって、その労力に見合う効果が生まれたとは言い難い。本書は、研究者と弁護士の二足の草鞋を履く著者が、実際に解決に奔走した事件をベースにその実態を暴く。取り上げるのは次の3つの事例だ。

1.共同研究における、企業と研究者の間の特許をめぐるトラブル

2.共同研究における、若手研究者に対するハラスメント

3.大学発ベンチャー企業の内実と、そこに勤めるポストドクターの待遇問題

――研究者(特に若手)を搾取すべきではない。企業にも研究者にもメリットのある共同研究のみが推進されることを願って止まない。

本書感想

 こんなことが起こっているのか,と衝撃を受けました。確かに,大学教員をしていて,「大学の先生だから〇〇」とか,「研究者だから〇〇」みたいな無茶な事案はありました。

 たとえば,「データ分析をタダで頼まれる」「記事をタダで頼まれる」などです。多くの大学の先生は,そういう行為が社会貢献になると信じてそういう案件も無償で引き受けますが(少なくとも私はそうでした),それを悪用している事例があるなんて。悲しくなりました。

 「大学教員は世間知らずだ」「社会に出たことないくせに」などと非難を受ける場面を見聞きしたことが何回もありますが,それにもかかわらず,昨今の風潮(制度)はそれと真逆で,大学教員を何でも屋(営業も,企画広報も,研究もさせる)として扱っているように思います。本書で取り扱っている産学共同研究がまさにその集結点であることが本書から読み取れます。

 研究者であり弁護士でもある著者だからこそ生み出された本書は,研究者だけでなく研究者と企業の間を仲介する人々にこそ読んでほしい一冊です。研究者と企業の間をうまくとりもてれば,研究者にも企業にもメリットがある真の意味での産学連携が可能になるとともに,より良い社会発展が目指せるであろうと思いました。

P.S. その仲介をできる人には結構なビジネスチャンスだと思います。