読書感想|永い言い訳

西川 美和(2016).永い言い訳 文藝春秋
本書紹介 from 文藝春秋BOOKS
妻が死んでも泣けない男のラブストーリー。映画化話題作
予期せず家族を失った者たちは、どのように人生を取り戻すのか――。人を愛することの「素晴らしさと歯がゆさ」を描ききった物語。
本書感想
「人間関係について描かれている小説ってある?」
連れ合いにそう尋ねて紹介されたのが本書『永い言い訳』でした。
冒頭部は「大学の時の彼女が絶頂に達しそうになると決まって拒絶し,その理由を語る」というシーンで始まります。 (詳細は一部公開されているHPにて)
「なるほど,この理由=言い訳にまつわる話なのかな」と思い,期待しながら読み進めましたが,ところがどっこい,この話は冒頭でしか出てきません。この話は,物語の核を伝えるただの一エピソードでしかありませんでした。
しかし,いつしか,冒頭の話の続きを期待して読んでいたはずなのに,その話のことはすっかり忘れるほど,物語に没入していきます。読了後に改めて1ページ目を開いてみて,「ああ,そういえばこの話を期待して読んだのだった」と思い出すほどでした。
連れ合いを亡くした男と,連れ合い(母)を亡くした家族が,喪失とどのような関係性を結んでいくのかということが,いろいろな視点から描かれます。男や家族の視点はもちろん,男の愛人や,男のマネージャー,AD(アシスタント・ディレクター)からの視点もあります。多層な視点によって「物語」が揺らぐのではなく,「物語」が構成されていくという印象を受けました。
映画も面白いそうなので,映画を観た後に改めて読み直してみるとまた違う読みがあるのだろうと感じました。映画も観てみたいと思います。
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