読書感想|あなたは,なぜ,つながれないのか

読書感想|あなたは,なぜ,つながれないのか

高石 宏輔(2015).あなたは,なぜ,つながれないのか──ラポールと身体知── 春秋社

本書紹介 from 春秋社

「あの時、何て言えば良かったのだろう……」

人の持つ悩みのほとんどが人間関係である現代。
とはいえ、誰も真実のコミュニケーションについて教えてはくれない。

引きこもり、パニック障害、うつなどの悩みを抱え彷徨った著者が、ナンパ、催眠、カウンセリングの中で経験した、「他人」を通して見出される「自分」を感じる方法を観察法やエクササイズを交えて解説する。

宮台真司氏(社会学者)、推薦!
本書は悩む人のために書かれたマニュアルではない。
むしろ悩まずに生きる人の歪みが焦点化されている。
この歪みこそが人間や対人関係を殺伐とさせている。
自分や社会を歪ませる身体性を解除せねばならない。
「損得を超えて内から湧く力」を獲得する実践の道へ!

本書感想

「絶望の時代」の希望の恋愛学』に登場した人物の一人である高石宏輔氏が著者。

高石氏「自身が取り組み,試行錯誤してきたこと,カウンセリングや講習で人に伝えて感じたことを書いて」(p.7)いる。「一人の人間がコミュニケーションについて考えたこととして,参考程度に読んでもらえるとありがたい」(p.241)とのこと。というのも,「価値観を与えるのではなく,じっくりと自分を見つめて答えを出す感覚を育んでもらう機会を作」(p.240)りたいからである。

なので,著者の体験記や思想を記した本ではあるが,「こうすればいい」というマニュアル的なものではないし(そもそも高石氏は本質的にはマニュアルを否定している),自己啓発的なものでもない。

一人の人間が自身の経験をもとにコミュニケーションについて学び,研究し,考え続けた結果が,ある程度の一般性をもって語られている。カリスマナンパ師である高石氏の著書であるからナンパの話かと思うかもしれないが(本のタイトルもなんかナンパっぽく見えるし),ナンパの話は経験の一つとしてしか出てこない。本書の内容は,コミュニケーション論であり,自己論であり,身体論である。

自身の経験を通してコミュニケーションや,自己,身体に深い考察を行っているが,その本質は”感覚”の観察にある。外(他者,環境)から受ける”感覚”,中(身体)から受ける”感覚”に徹底的に繊細になること。どちらかの”感覚”に偏るのではなく,両方の”感覚”に注意を向けること。それらの基礎になるのが身体であり,それらを通して良質なコミュニケーションが達成されうる。

身体に基づいた”感覚”の観察を上達させるためのトレーニングも記されており,その点でコミュニケーションの実践的な書でもあると思う。(実際にトレーニングを一度試してみましたが,やはり一度では”感覚”の観察は難しく,継続が大事だなと思いました)

コミュニケーションに関する”答え”はないけれど,”答え”を探す力を補充してくれる一冊であった。