心理学をまじめに考える方法

心理学をまじめに考える方法
ブクログのレビューで良い感想がありました。引用させていただきます。

「心理学の科学性,というか科学志向性を考えるために良い本だと思います。」
FROM gsd9720さんのレビュー

私も同じ感想を持ちました。

本書では,心理学がどこまで科学的か,しかしなぜ科学として(他の科学のようには)見てもらえないのか,について説明されていました。

心理学は,その方法を科学から持ち込んだという歴史があります。ですので,心理学の方法がいかに科学的かを説明する本書は的を射ていると思います。現在用いられている心理学の方法はまさに「科学」でしょう。

しかし,心理学が対象するモノ(つまり,人間の心)は,科学の対象とは違います。(自然)科学は人間(研究者)の観測が対象とするモノ(研究対象)に影響を与えることはありませんが,心理学は不可避的にそれが起こる場合があります。

※ (自然)科学における観測問題は,人間の観測がモノに影響を与えているのではなく,モノの振る舞いを人間がより正確に捉えられるようになった結果としての現象であると私は考えています。

そのような「対象とするモノ」の違いがあるにもかかわらず,方法の科学性をもって心理学を科学であると宣言することは,私には一定の違和感があります。

たとえば,煮物をつくるときに鍋を使いますが,野菜炒めを作るときにはフライパンを使うと思います。このときの,鍋かフライパンか,が方法です。もちろんフライパンで煮物を作ることもできますが,もっとも美味しい煮物を作ることができるのは鍋であろうと思います。

すなわち,心理学が対象とする人間の心にはそれを捉えるために科学の方法以外の適切な方法があるのではないか,その方法をきちんと見つけ出せたときに,心理学ははじめて「科学」になるのではないかと思います(そのときの「科学」が自然科学的かはわかりませんが)。

心理学が対象するモノは多様です。したがって,中には,従来の(そして現在に続く)心理学的方法がうまく適用できるところもあると思います。他方,それがうまくいかない分野もあると思います。

ヴントが実験心理学と民族心理学を構想したように,自然科学的心理学と人文科学的心理学とがうまく共存したとき,心理学ははじめて人間科学として素敵な学問になるのではないかと思います。

その意味で,本書は,自然科学的心理学の方向性について考えさせてくれるもので,また,胡散臭い「エセ心理学」と(自然科学的)心理学を見分ける視点を養ってもくれるものでした。