読書感想|「知らない」のパフォーマンスが未来を創る

読書感想|「知らない」のパフォーマンスが未来を創る

ロイス・ホルツマン(2020).「知らない」のパフォーマンスが未来を創る──知識偏重社会への警鐘── ナカニシヤ出版

『「知らない」のパフォーマンスが未来を創る』 from ナカニシヤ出版

人間の発達と学習は個人の内面ではなく人びとが協働で創造した「舞台」から生まれる!知ることに依存している現代社会に警鐘をならし、ヴィゴツキーや後期ヴィトゲンシュタインに依拠しながら遊びと演劇的パフォーマンスを、そして演劇的パフォーマンスと発達を結びつける革新的教育活動の入門書

本書が強調する,知識や知ることに代わる別種の人間理解は,パフォーマンス心理学として結実し,たとえばサリットの企業研修などにおける,人びとの共同的な身体実践であるパフォーマンスを強調する動きに具体化されているのです。現在の日本の学校教育にも知識修得ではない学びや,即興や創造性を重視する学習支援が取り入れられつつあります。本書は,このような新しい学習観をリードするものなのです。(「日本の読者に向けたまえがき」より)

肥大化した脳では理解できない──本書感想

本書が提案する,あたらしい心理学は,いわゆる「心理学」ではない。

いわゆる「心理学」が要素還元的で,人間を自然と同一視した観点でとらえられると考えており,個人主義的だとすれば,あたらしい心理学は,全体論的で,人間の人間としての側面を考えており,コミュニティ的である。

ただし,説明の便宜のために用いた上述の二分法自体をあたらしい心理学が否定していることに注意は必要である。

そこから派生することとして,因果的パラダイムの否定(Unscientific Psychologyではパラダイム自体を否定している),「知ること」の否定がある。そして,創造の可能性を論じられる。

これまでにホルツマンあるいはパフォーマンス心理学に関連する書物として,

を読んできたものの,まだまだホルツマン心理学の理解には程遠いし,実は理解しようとしている時点でホルツマンが否定するパラダイムにのっているのではないかとも思う。

ホルツマンの議論は自己啓発的にも読めてしまう。しかし,ホルツマンの言っていることを「自己啓発」として読んでしまうと,それはまったくホルツマンのことを読めていない。なぜなら,ホルツマンは「自己」(と他者という二元論)を否定するわけなので,ホルツマンの議論は決して「自己啓発」ではない。

では,なんなのか,というと,まだまだ肥大化した脳を持つわたしではうまく言語化できない。

「すべての文章を3回も4回も繰り返し読み直す必要がないように…私は話したいと思っています」(p.4)と述べているが,何回も何回も読み直していきたいと思う。(でも,それこそが肥大化した脳にとらわれているのかも?)