読書感想|星が吸う水

読書感想|星が吸う水

村田 沙耶香(2013).星が吸う水 講談社

本書紹介 from 講談社BOOK倶楽部

恋愛ではない場所で、この飢餓感を冷静に処理することができたらいいのに。「本当のセックス」ができない結真と彼氏と別れられない美紀子。二人は「性行為じゃない肉体関係」を求めていた。誰でもいいから体温を咥(くわ)えたいって気持ちは、恋じゃない。言葉の意味を、一度だけ崩壊させてみたい。
表題作他一篇。(講談社文庫)

性行為には、本物と偽物がある。
人肌を求めるだけなら、それは、恋じゃない。

●星が吸う水●ガマズミ航海

本書感想

 私たちは性欲=性行為(セックス)と愛(親密性)を否応なく結びつけてしまう。愛がなければ性行為をしてはいけないし,性行為をするならば愛がなければいけない,と。それこそが「本物」であり,それ以外は存在しないと考えてしまう。

 でも,果たして,そうなのであろうか。「本物」とは「偽物」があるから存在しうる。いや,「偽物」を「本物」だとみなすから「偽物」が存在するし,その意味で「本物」も存在する。たとえば,グッチの鞄の模造品を「グッチの鞄」とみなすから,「偽物」と「本物」があるように,性行為without愛を性行為with愛とみなすから,性行為without愛が偽物,性行為with愛が本物になる。本来は異なるものをあるモノと同じとみなすから,本物と偽物が生まれる。

 それらは本来異なるものである。ただ,似ているだけである。グッチの鞄であれば,細く見ると,似ている部分と似ていない部分が目に見えるので,それらが本来異なるモノであることがわかる。しかし,性行為with愛と性行為without愛では,目に見える部分(性行為)が似ていて,目に見えない部分(愛)が似ていない。だからそれらは切り分けがつかない。ここに両者の難しさがある。

 それらが本来異なることを知るためには,目に見えるようにするしかない。あるいは,身をもって体験するしかない。でも,どうやって?それがまた難しい。この点がそれらの切り離しがたさをさらに難しくしている。目に見えない部分が似ていないという難しさに加えて,目に見えるようにする,あるいは,体験することの難しさという二重の困難。

 本書はこの二重の困難に正面から向き合う。性欲と愛の分かちがたさという自明のつながりを改めて問い直す。あるいは,人と人との親密なつながりについて,親密とは何かについて。あるいは,性欲について,愛について。

 「本物」とはいったい何なのだろう。