読書感想|海をあげる

上間 陽子(2020).海をあげる 筑摩書房
本書紹介 from 筑摩書房
どうして目の前の日々が、ここまで政治とつながらないのか。沖縄に暮らす著者は、自らの声を聞き取ろうとする。『裸足で逃げる』から3年、初めてのエッセイ集。
本書感想
著者を優しい人だと思っていた。繊細で丁寧で気配りのできる人だと。それはそうなのだろうと思う。でも,彼女は優しい人である以上に実は世界に絶望している人だった。
著者は他者の声なき声を声化し,ありのままの姿を描くのに長けている(岸はそれを『「かわいそう」でも,「たくましい」でもない』と表現している)。著者のそのような力は本書にも生かされている。彼女自身の声なき声を丁寧に聞き取り,それをありのままに表現している。
著者の表現は胸に響く。最初(『美味しいごはん』)から衝撃がはしる。ここまで書いていいのか,どういう想いでここを書いたのか。本書を読むたびに何度も何度も反芻させられる。涙も出てくる。
でも,著者はそのことに絶望しているように思う。わたしの声は胸に響く,でも,それ以上でも以下でもないのではないか,それを超えるにはどうしたらいいのだろうか。著者はそういったことに思い悩んでいるように私には思える。
本書を読んで心に響いて泣いて,多くの人に本書を紹介したいと思って,沖縄のひいては政治の問題について考えなければならないなど,そういったことが心に浮かぶ人は多いであろう。それはそれでいいことなのだと思う。
でも実はそれこそが著者が絶望していることなのだと私には思える。海をあげられた私たちはその絶望について考えなければならない。
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