女性は相手が魅力的であると判断するほどコンドームを使用しなくなる!?

女性は相手が魅力的であると判断するほどコンドームを使用しなくなる!?

先日、Twitterのタイムラインで以下のツイートが流れてきました。“Does attractiveness influence condom use intentions in women who have sex with men?”(魅力は男性とセックスする女性のコンドーム使用意図に影響するか?)という論文に関してです。

相関係数の高さ(r = -0.552)が気になったので、公開されていたデータを使って再分析してみた結果、男性の魅力に対する女性の評価は女性のコンドーム使用意図にそこまで影響はありませんでした。以下、その詳細です。

なお、元論文の書誌情報は下記のとおりです。また、私が実施した分析は清水先生のHADを用いて行っています。

【元論文】Eleftheriou, A., Bullock, S., Graham, C. A., Skakoon-Sparling, S., & Ingham, R. (2019). Does attractiveness influence condom use intentions in women who have sex with men? PLoS ONE, 14(5), e0217152. https://doi.org/10.1371/journal. pone.0217152

【HAD】清水裕士(2016). フリーの統計分析ソフトHAD:機能の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法の提案  メディア・情報・コミュニケーション研究, 1, 59-73.

問題点の概略

最初に問題点の概略を示しておきます。2つあります。

  1. 集計データに基づいてなされる分析・解釈と個人データに基づいてなされる分析・解釈は違うものであるのに、この弁別が明確にはなされていない。
  2. 元論文で取得されているデータは階層データなので、それに応じた分析をした方が良いと思う。

個人データと集計データ

元論文では、Associations between participants’ ratings of the 20 men(20名の男性についての参加者たちの評価の関連)のセクションで、Table 3の結果が得られたと書かれていました。

Table 3. 男性20人(df=478)の魅力に関する平均評価(AM)、彼らに対するコンドーム使用意向(CM)、彼らのSTI可能性(IM)、参加者のような女性が彼らとコンドームなしセックスをしたいと思う程度(MM)、参加者の彼らとのセックス意向(SM)の間の二変量関連。
ピアソンのr値は表の右上に、スピアマンのρ値は左下に示されている: *=p<0.05, **=p<.0.01, ***=p<0.001, 灰色のセル=n.s.。 /DeepLによる翻訳/

df=478と書かれているので、個人データ、つまり、参加者480名のデータを使って相関分析(とその検定)を実施しているのかなと一瞬思うのですが、実はそうではなくて、集計データを使って相関分析をしているように思います。集計データとはこの場合、女性480名が評価した男性20名分のデータを指しています。

もう少し詳しく説明します。

この調査では、480名の女性に、男性20名の顔写真を見せて、各男性について以下の評価を求めています。

  1. 男性をどの程度魅力的に思うか(A)
  2. 機会があればどの程度男性とセックスしたいと思うか(S)
  3. 男性とセックスできるとしたらあなたはどの程度コンドームを使うと思うか(C)
  4. ほかの女性100名のうち何名くらいがコンドームなしのセックスをこの男性とすると思うか(M)
  5. 男性はどの程度性感染症に罹患していそうか(I)

このとき、女性ごとに以下の表1のような評価データが得られるのですが、このデータが個人データです。

参加者男性1_1男性1_2男性1_3男性1_4男性1_5男性2_1
女性1151310019319
女性24026990500
女性3582995280
女性480982762
女性52159924225
表1 個人データ。

他方、集計データとは、論文のTable 1で示されている平均評価に相当します。すなわち、男性ごとに女性480名の評価を平均した値です。Table 3の結果は、480名の女性のデータではなく、この20名分のデータに基づいていると思われます。なので、df=18です。これは間違い(表記ミスかなと思います)。

Table 1. 各男性写真に対する参加者の平均評価(尺度0-100)。括弧内は標準偏差。/DeepLによる翻訳/

ただ、実際に男性20名分のデータを使って相関係数を算出してみると、その結果はTable 3と一致しました。なので、相関係数の値に間違いはありません。

なら良いではないかと思うかもしれませんが、注意しなければいけないのは結果の見方・解釈の仕方です。集計データに基づいて得られた相関関係を個人レベルで見ること・解釈することは原則的にはできません。これは生態学的誤謬と呼ばれます(森「生態学的データ利用における誤謬の問題」を参照)。

たとえば、以下の図1は、3名の女性が3名の男性写真に対して魅力度とセックス意図を評価し、その関連を散布図にしたものです。男性1と書かれた四角い枠で囲まれている点が男性1に対する女性3名の評価です。また、同じ色(黄色、青、白)で塗りつぶされている丸が同じ女性を表しています。たとえば、黄色で塗りつぶされている点(男性1の枠の真ん中の点、男性2の枠の右端の点、男性3の枠の真ん中の点)は女性1の男性1~3に対する評価です。

図1 魅力度とセックス意図との関連(仮想データ)。

個人データとして相関関係を見る場合は、上の図でいうと、男性1(あるいは2、あるいは3)の枠の関連を見ることになります。そうすると負の相関関係が見られます。しかし、集計データ(赤い丸で囲まれているところ=各男性についての女性の評価を平均)でみると正の相関関係にあります。このように、集計データに基づいて得られた相関関係を個人レベルの相関関係と見ることはできません。

また、結果の解釈の仕方も異なります。たとえば、上の例で言えば、個人データの相関関係の場合、「(ある男性について)女性が男性の魅力を高く評価するほど、セックス意図は下がる」と解釈できますが、集計データの場合は「女性から平均的に魅力的であると評価された男性ほど、女性から平均的にセックスしたいと思われやすい」です。ここで大事なのは、解釈の対象(個人レベルでは女性に焦点がある、集計レベルでは評価された男性に焦点がある)です。集計データに基づいた相関関係から、個人レベル(〜な女性ほど、〜である)での解釈はできない、ということです。なので、ツイートの「女性は相手が魅力的であると判断するほど避妊具を使用しなくなる」という解釈はできないということになります。

ちなみに、論文では、集計データに基づく相関関係を個人レベルでは解釈していないように読めるので、ツイートが誤った解釈をしてしまったのかなと感じます(でも論文でdf=478と書いてあるので、そのせいもあるかもしれません)。

階層データ

元論文では、個人データに基づく相関関係も算出しています。それが、Overall ratings of men(男性の全体的評価)のセクションです。論文では、男性ごとに個人データに基づいて相関係数を算出するのではなく、すべての男性に対する評価の平均を女性ごとに算出し、そのデータに基づいて各変数の相関を出しています。ただ、その相関の出し方はあまりよろしくないと思います。というのも、このデータは階層データだからです。

階層データとは、入れ子構造になっているデータです(Figure 1)。たとえば、学級1の学生30名、学級2の学生30名、学級3の学生30名の合計90名に調査したデータは階層データですし、Aさんに4回、Bさんに4回、Cさんに4回、という縦断的に調査したデータも階層データです。このような階層データに対して、既存の相関分析や回帰分析を実施するのはあまり適切ではないと指摘されています(詳細は、清水裕士「ペア・集団データにおける階層性の分析」や、『個人と集団のマルチレベル分析』を参照)。

清水(2006)より引用

上図右側を参考にすると、元論文では、女性A(B、C、….)が男性20名(T1~T20)の評価しているという階層データになっています。しかし、階層データに適した分析をするのではなく、T1~T20をつぶして(つまり、平均して)T’にして、ピアソンの相関係数を算出しています。

というわけで、階層データに対する相関分析である、マルチレベル相関分析を試みてみました。その結果は表2です。

表2 マルチレベル相関分析の結果。対角行列は級内相関、上三角行列はWithinレベル相関、下三角行列はBetweenレベル相関。

詳しい説明は省きますが、「男性を魅力的に評価する女性ほど、〜」といった解釈のできる結果は赤字の箇所です。この結果は、男性の全体的評価 Overall ratings of men のセクションで報告されている相関係数と大きく違いはありませんが、少なくとも「男性を魅力的に評価する女性ほど、コンドーム使用意図が下がる」という関連はあまり強くない(r = -0.159)ことがわかりました。

ちなみに、個人内(Withinレベル相関)では、魅力とコンドーム使用意図との間にほとんど相関はない(すなわち、女性が男性を魅力的に評価するほどコンドーム使用意図が下がる、というような関係はみられない)ので、あくまで魅力度とコンドーム使用意図との負の関連は、個人差に関するものと言えそうです。それでも、BetweenレベルのA、S、Mの間の相関係数が高くて驚きですが。

なお、個人内と個人差との違いがわかりづらいかと思うので補足しますと、個人内レベルで相関があるとは、Aさんが男性1を「魅力的」と評価し、男性2を「魅力的でない」と評価した場合に、男性1に対しては「コンドーム使用意図が低く」、男性2に対しては「コンドーム使用意図が高く」なることを指します。一方、個人差レベルでの相関とは、Aさんが男性1を「魅力的」と評価し、Bさんが男性1を「魅力的でない」と評価した場合に、Aさんは「コンドーム使用意図が低く」、Bさんは「コンドーム使用意図が高く」なることを指します。この場合、Aさんが男性2に対して「魅力的でない」と評価したときに、「コンドーム使用意図が高くなる」かどうかについては何も言えません。生態学的誤謬と同様に、個人差についての結果から個人内について言及することは原則としてできません(逆も同じです)。

線形混合モデル

せっかくなので、線形混合モデルについても分析してみました。論文で使用していたコンドーム使用抵抗戦略尺度をどうやって得点算出するのか調べきれなかったため、同尺度を投入せずに分析しています。なので、元論文と同じ分析ではありません。

一応結果としては、論文と同様の結果が得られました。ただ、論文では回帰係数を書いていなかったので、そこが同じなのかはわかりません。ちなみに、コンドーム使用意図と魅力度との関連はβ=-0.038、男性の性感染症の可能性との関連はβ=0.025、セックス意図との関連はβ=-0.046、ほかの女性がコンドームなしのセックスをすると思うかとの関連はβ=-0.047でした。あまり強い関連はなさそうです。

終わりに

というわけで見解をまとめておきます。

「女性は相手が魅力的であると判断するほど避妊具を使用しなくなる傾向が確認された」というツイートについて

【見解】この解釈は個人内解釈にも読めるので、あまり正確ではありません。正しくは「男性を魅力的であると判断する女性ほど、その男性とのセックスにおいて避妊具を使用しなくなる傾向が確認された」です(個人差の解釈)。

男性の魅力に対する女性の認識は、コンドーム使用の意図に影響する。このようなリスクバイアスは、性的健康教育プログラムやコンドーム使用介入に取り入れるべきである。という論文の結論について

【見解】コンドーム使用意図に対する女性よる男性の魅力評価の影響力は大きくなく、また、その関連は個人差に基づくものと考えられるので、性的健康教育プログラムのような個人の意識を変えるような介入は、この結果からは正当化されません(個人差に基づく結果を個人内で解釈できないため)。「男性の魅力に対する女性の認識はコンドーム使用の意図に影響するが、その関連は小さかった。」くらいで留めておく方が良いように思いました。