心理学的構成概念の起源について

心理学的構成概念の起源について

 先日,「人工知能と心理学について、現職ITコンサルタントが思うところ@オンライン」がありました。その際に,心理学的な構成概念の話になり,その起源について簡単に説明したのですが,その説明に不備があったように思うので,自分の整理も兼ねて,ここに簡潔に記しておきます。

 なお,ここでの記事は,以前開催した研究会「特集「Conceptualizing Psychological Concepts」を読む@オンライン」で発表した内容(Slaney & Racine, 2013)と,Slaney(2017)に基づいています。ただし,[]で括ったところは私の補足情報です。

 構成概念の起源は,バートランド・ラッセル(Russell, 1917)の「論理的構成」にさかのぼることができます(ただし,Meehlはその系譜を否定)。このときの構成概念は「ある現象(群)に関して定式化された(=構成された)(一連の)見解」のことで,いまの心理学で使われるような「何かしらの推論された実体」を指すわけではありませんでした。端的に言えば,コミュニケーションの道具であり,あくまで論理的に構成された「虚構」でした。

 その後,構成概念の役割に関する議論があちこちで盛り上がるのですが,心理学的な構成概念にとって決定的に重要だったのは,1940年代に盛り上がった,介入変数と仮説的構成概念に関する議論です。[この議論の変遷については,岩原(19561958)で,著者自身の見解とともに整理されています。]

 介入変数とは,独立変数と従属変数をつなぐ関数(Tolman, 1938)のことで,「論理的構成」につらなる,あくまで刺激と反応とを媒介する,数学的に導出された(=論理的に構成された)ものでした。しかし,厳密にそのような使われ方をしない事例も増えてきて,最終的にトールマン自身も,「観察不可能な原因/相関である理論的概念」として介入変数を考えるようになります。

 そのような混乱のさなか,MacCorqudalとMeehl(1948)が,介入変数と仮説的構成概念[仮説的構成体:岩原(1958)]とを区別することを提案し,後者は心理学の中に早々に定着していきます。なお,介入変数とは先に定義したもので,仮説的構成概念とは,実在するが現在は観測不可能な仮説的な実体(プロセスなど)として定義されていました。

 その後,APA(1954)の”Technical recommendations”において,構成概念妥当性が導入され,「構成概念」という用語が登場します。その際,構成概念には明確な定義がありませんでした。しかし,明確に定義していないにもかかわらず,そこでは,2つの意味が暗示されていました。一つは,テストパフォーマンスに反映される「特性あるいは特質」,もう一つは,観測変数の集合を要約するために使用される「理論的な構成物」です。[すなわち,MacCorqudalとMeehl(1948)が区別しようとしたはずの介入変数と仮説的構成概念が,構成概念という名のもとに,改めて混ざり合ってしまいました。(追記)厳密には介入変数と理論的な構成物は(後者はラッセルの意味に近いものなので)若干違いますが,構成された「虚構」という点で類似しており,それが弁別されなくなったという点で混ざり合ってしまいました。]

 その1年後に,CronbachとMeehl(1955)が「構成概念」を正面から論じます。構成概念とは「テストパフォーマンスに反映されると想定される,人間のある仮定された属性」および「テストを解釈する際に我々が言及する属性」,すなわち,「母集団内において異なる[人によって異なる]けれども,個人が「所有し」,特定の行動に特定の方法で関連していると考えられる特定の「属性」や「性質」」であると定義しました。[大雑把に言えば,仮説的構成概念が構成概念になりました。]

 しかし,上記のように構成概念を定義したにもかかわらず,CronbachとMeehl(1955)では,別の内容も含まれていました。一つが,構成概念とは,そのような「属性」や「性質」ではなく,「帰納的要約inductive summaries」として考えることもでき,本質的に概念であることです。 [法則定立ネットワーク(図1)で言えば,構成概念を理論=理想と考えるということです。]そして,自然法則についての不完全な知識ゆえに,構成概念の意味を特定することは難しく,構成概念にはある程度の曖昧さが残ると論じました。これが構成概念のもう一つの内容です。

図1. 法則定立ネットワーク(村山,「妥当性概念の展開」より引用)

 まとめると,CronbachとMeehl(1955)では,構成概念に3つの内容がありました。

  1. 心理学研究において研究される実在するが観察できない対象
  2. 観測対象の潜在的な大きな集合を要約し,研究者コミュニティ内のメンバー同士でのコミュニケーションを容易にするための機能を果たす理論的直観(ヒューリスティック)
  3. 焦点となっている現象(=研究対象)についての知識群の現状

 そして,このような内容がいびつに絡み合ったまま,現代の(心理学的な)構成概念の使用にいきつき,概念的な混乱を助長する原因にもなっています。

 以上が,心理学的な構成概念の小史でした。細かくは書きませんでしたが(まだ書けないだけ。笑),CronbachとMeehl(1955)以降,肯定的にせよ,否定的にせよ,様々な批判が行われています。現代にも通じるような否定的な批判が当時行われているのですが,それはなぜか「無視」されたそうです。それがなぜなのかちょっと気になっていて,調べたいと思っています。