オール・ユー・ニード・イズ・キルのラストについて考えてみた

オール・ユー・ニード・イズ・キルのラストについて考えてみた

先日,映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』をamazonプライムでレンタル(¥100)して観ました。

日本のライトノベルが原作のハリウッド映画。作品情報は以下の通りです。

日本原作
トム・クルーズ主演 
戦う、死ぬ、目覚める―。
何回死んでも、彼女を守って、世界を救え!

<最強の敵から世界を救うのは─死んだ数だけ、強くなる男>
遂に日本の小説が、超大作として映画化!
原作は、桜坂洋の傑作SF小説。
主演はトム・クルーズ、監督は『ボーン・アイデンティティー』のダグ・ライマン。
未だかつて見たことがないトム・クルーズがここに!必見のアクション・エンターテイメント超大作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』が新時代を築く!

謎の侵略者“ギタイ”からの激しい攻撃で、滅亡寸前に追い込まれた世界。戦闘スキルゼロのケイジ少佐は最前線に送り込まれ、開戦5分で命を落とす。だが次の瞬間、彼は出撃前日に戻っていた。その時から同じ日を無限に繰り返すケイジ。やがて彼は最強の女性兵士リタと出逢う。ケイジのループ能力が敵を倒す鍵になると確信したリタは、彼を強靭な“兵器”に変えるべく、徹底的に鍛え上げる。“戦う・死ぬ・目覚める”のループを繰り返すことで別人のように成長したケイジは、世界を、そしてかけがえのない存在となったリタを守りきることができるのか──? 

https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=4197/

というわけで,ループものと呼ばれる作品の一つなのですが,とても面白かったです。

侵略者=エイリアンが出てきますが,グロテスクでもなく,過激な暴力性もなく,それにもかかわらず刺激はある(エロによる刺激ではなく内容としてのワクワク感)という自然とひきこまれる作品でした。amazonや映画.comでの評価が高いのも納得です。

ところで,ループものと呼ばれる,時間がループする系の作品には以下のような課題があるそうです。

タイムトラベルの類は、「過去-未来の非対称性」や、「時間の流れ」という概念を前提としているが、これらの前提をどう扱うかで「タイムトラベル」は様々に描かれる。視聴者を楽しませてくれる反面、作者には、視聴者に論理破綻を感じさせないようにストーリーを構築する、夢があるように描く、などの課題を突きつける

Wikipedia『タイムトラベル

論理破綻という課題に関して,個人的には,そういうのがないようにストーリーが構築されていると感じました…ただ一点を除いては。

その一点とはラストシーンです。ラストシーンに違和感があり,個人的には「なぜそうなるの?」と思ってしまいました。色々とネットで調べてみたりもしたのですが,納得いくものがありません。モヤモヤ…。このモヤモヤをすっきりさせるためにその点について少し考えてみました。

以下,ネタバレです。もしまだ映画を観ていない人はぜひ映画の視聴後に以下をご覧ください。私もまだ未解決な部分がありますので,一緒に考察していただけますと嬉しいです。

敵のおさらい

まず,敵“ギタイ”には3種類います。クリボー・ギタイ(勝手に命名),アルファ・ギタイ,オメガ・ギタイです。

クリボー・ギタイ
3種類の中で最も個体数が多い一方,最も弱いギタイ。将棋で言うと歩。身体で言えば毛のようなものかなと。

アルファ・ギタイ
特殊なギタイ。クリボー・ギタイよりも大きく,強い。攻守の要。将棋で言うと飛車角あたり。身体で言えば手足。
ちなみに,アルファ・ギタイの血を浴びると「タイムループ能力」を得る。これにより,主人公のケイジ(トム・クルーズ)は「タイムループ能力」を得た。

オメガ・ギタイ
ギタイのコア。ギタイは3種類いるが,すべてで1つの生命体。なので,オメガ・ギタイを倒さないとギタイは消滅しない。オメガ・ギタイ自体は攻撃できず,即座に移動もできない。動けない王将みたいな感じ。身体で言えば脳。
ちなみに,オメガ・ギタイの血を浴びても「タイムループ能力」を得る。

ストーリーのおさらい

ケイジ(主人公)は戦闘への初出撃で,アルファ・オメガの血を浴び,「タイムループ能力」を得ます。

映画で描かれていた「タイムループ能力」とは,死んだら記憶を残したままある地点まで時間が巻き戻るというものです。具体的には,あることがきっかけでケイジは出撃基地送りにされるのですが,そのときに(おそらく)気絶させられて基地に送られます。そして,基地の敷地内で気絶から目覚めるのですが,そこがタイムループの出発点です。目覚めてからの時間は基本的には同じ。ケイジの行動によって変化はあるものの,基本的には同じ日々を繰り返しています。そして,ケイジが死んだら(=タイムループの終結点), タイムループが発動し,また出発点から始まります(記憶は残ったまま)。

簡潔に図にすると以下です(図1)。

図1. タイムループの概略図

この「タイムループ能力」を使って,敵の動きやら,他の人の動きやらを学び,攻略し,敵のボスであるオメガ・ギタイへと接近していきます(その間に何百回も死んでるわけですが…)。最もオメガ・ギタイに近づいたとき,ケイジはあることをきっかけに「タイムループ能力」を失います。死んでもタイムループできなくなります。

それでも決死の想いで,仲間の命や自らの命をかけてオメガ・ギタイを倒します。すなわち,ケイジもその仲間たちもオメガ・ギタイも死にます。ところが,土壇場でケイジだけがオメガ・ギタイの血を浴び,再び「タイムループ能力」を得ました。

その後シーンは問題のラストに移ります。「タイムループ能力」を得たケイジが目覚めたのは基地…ではなく,ヘリの中。ケイジは基地送りにされる前(前日?)にヘリに乗って作戦本部に向かっているのですが,そのヘリの中で目覚めます。

「何が起きたんだ?」という様子のケイジ。ヘリ着陸後,ニュースを確認したケイジは,その日の明け方にオメガ・ギタイが消滅した(原因不明)ことを知ります。そして,仲間たちも生きていることを確認。最後に,かけがえない存在であるリタと“初対面”し,笑顔で終わります。

以上が,かなり簡潔なストーリのおさらいです。

ラストシーンへの疑問

ハッピーエンドで終わるのは良いとして,ラストシーンには多くの人が疑問を感じているようでした。

http://the-writer.hatenablog.com/entry/2017/07/17/083647
https://type-r.hatenablog.com/entry/20140720/p1

疑問点は2つです。

(1)タイムループの出発点が変わっている
(2)時間が巻き戻ったのにギタイだけ消滅している

(1)に関しては,出発点が上書きされたと考えれば辻褄が合いそうです。「ケイジが最初に「タイムループ能力」を獲得したときの出発点が基地の中だった。しかし,一度,能力を失ったことでその出発点が無効化され,再度能力を得たときには,新しい出発点が設定された。」と考えることができるかなと思います。

「なぜヘリの中だったのか」ということに関しては,基地で目覚めるよりも前に「目覚め」という行為をした時点がヘリの中だったと考えることができるかなと思います。

問題は(2)です。色々と考察サイトを読みましたが,なかなかすっきりしませんでした。でも,なんとかすっきりしたい。なので,物語の論理を破綻せずに,ラストのシーンをすっきりできるような道筋を自分なりに考えてみました。

とりあえずの結論は「オメガ(アルファ)・ギタイの能力はタイムループ能力ではない」のではないかということです。

以下で詳しく説明していきます。

ギタイの能力は自己再生,その代償による過去の再体験

アルファ・ギタイ,オメガ・ギタイには「タイムループ能力」があると考えられていました。そして,血を浴びたらその能力が転移する。そう考えられていました。だから,ケイジが最後にオメガ・ギタイの血を浴び「タイムループ能力」を発動させたはずなのに,巻き戻った時間にギタイが消滅しているのはおかしいという疑問が浮かびます。

でも,アルファ・ギタイ,オメガ・ギタイの能力を「自己再生能力」,そしてその発動の代償が「過去の再体験」と考えると辻褄が合うように思います。どういうことでしょうか。

アルファ・ギタイの能力
アルファ・ギタイは死亡したとき,オメガ・ギタイに信号を送ります。その信号とは「自己再生せよ」という信号です。この信号の送信がオメガ・ギタイの能力発動の条件になります。

オメガ・ギタイの能力
アルファ・ギタイから送信された信号を受け取るとオメガ・ギタイは「自己再生能力」を発動させます。「自己再生」とは自分の身体が消滅したときに身体を傷つく前の状態に戻すことです。ギタイに即していえば,アルファ・ギタイが死んだとき,身体が傷つく前の状態に戻します(=アルファ・ギタイの復活)。ただし,「自己再生能力」を発動すると,その代償として,直近の覚醒した時点(目が覚めたなど)からの日々をもう一度やり直さなければならない義務を負います。過去の日々を再体験しなければならないということです。だから,記憶を持ったままで過去に巻き戻ったように見えるけれど,ギタイ主観で見ると時間は進んでいて,毎日同じような日々が続くという感覚です。

要するに,ギタイの能力は「タイムループ」(時間が巻き戻っている)ではなく「自己再生」で,自己再生をするためには,同じ日々をもう一度過ごさなければいけない(昨日という1日が翌日にも生じる)というコストを負っているということです(映画では“時間が戻る”ことが敵を攻略する際のメリットになっていたわけですが,本来は「自己再生」を発動するためのコストであったということ)。

現実の時間軸とは別にオメガ・ギタイの時間軸があるという感じです。図にしてみました(図2,伝わることを祈ります…)。

図2. タイムループの場合と自己再生の代償としての過去の再体験の場合の時間軸の違い

このように考えると,オメガ・ギタイがラストシーンで消滅していたことの辻褄が合うような気がします。

アルファ・ギタイの能力は「信号の送信」,オメガ・ギタイの能力は「自己再生」,その代償として「過去の再体験」が必要です。それぞれの血を浴びたときに転移するのは,それぞれの能力+「過去の再体験」と考えます。

そうすると,ラストにケイジがオメガ・ギタイから受け継いだのは「自己再生能力」=自分の身体が消滅したときに身体を傷つく前の状態に戻す能力(+過去の再体験)でした。瀕死の状態であったケイジは能力を受け継いだ後に死亡します。死亡したことで「自己再生能力」が発動し,傷つく前と同じ状態に戻ります。その代償として直近の覚醒した時点(=ヘリの中)から日々をやり直すことになるわけです。

ですが,オメガ・ギタイは自己再生能力を発動できません。なぜなら,アルファ・ギタイ(=身体)からの信号がなければオメガ・ギタイは「自己再生能力」を発動できないためです。オメガ・ギタイは「自己再生」できないまま「過去の再体験」という時間軸を進みます(時間が巻き戻っているのではなく,ギタイ主観では時間が進んでいる)。なので,ケイジが覚醒した時点でオメガ・ギタイはいつの間にか消滅しているわけです。

このように考えると,(2)時間が巻き戻ったのにギタイだけ消滅しているという疑問は解消されるように思います。すなわち,「時間は巻き戻っているのでなく,(ギタイ主観では)時間が進んでいる。ただ,自己再生できなかったので消滅した」ということです。

でも,まだ完全解決にはなっていない部分があります。それは,ケイジが覚醒した時点(=ヘリの中)とギタイの消滅した時間帯にずれがあるということです。

ケイジが覚醒したのは12~13時なのですが(時計が映っていた),ギタイの消滅は明け方とされています。ケイジたちが身を賭してギタイを倒した時間帯が明け方だったので,おそらくその時間帯が消滅時間ということなのですが,時間帯は同じでも日にちがズレています。

たとえば,あくまで適当な日付ですが,

実際にギタイを倒した日付と時間:29日明け方
ケイジが「自己再生能力」により覚醒した日付と時間:27日12時〜13時
ギタイが消滅したとされた日付と時間:27日明け方

というような感じで,ケイジが覚醒するよりも前にギタイが消滅したことになっています。

なぜ時間帯にズレがあるのかについてはまだスッキリするストーリーを自分なりに考えきれていません。引き続き考えていきたいと思っていますが,スッキリするストーリーをお持ちの方がいらっしゃいましたら,ぜひ教えてください。

まとめ

【映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のラストシーンにまつわる疑問】

(1)タイムループの出発点が変わっている
(2)時間が巻き戻ったのにギタイだけ消滅している

【考察】

(1)出発点が上書きされた
最初に得たタイムループの出発点は,1度能力を失ったことで消滅。2度目に能力を手に入れたときに新しい出発点が形成された。

(2)時間は巻き戻っていたのではなく,進んでおりギタイは自己再生できなかった
ギタイの能力は「タイムループ」ではなく「自己再生」。ただし,「自己再生」の際に,過去の日々を再体験しなければならないという制約がある。要するに,昨日という1日を明日も体験しなければならない(時間は進んでいる)。ギタイの時間は進んでいたけれども,自己再生できなかったために消滅した。

【残された疑問】

ケイジ(主人公)が覚醒した時点(ギタイの能力を得て新しい一日を始めた時点)と,ギタイの消滅した時間帯にズレがある。なぜズレているのか?

【雑感】

初めて映画について深く考えてみました。なかなか難しかったです。「このような矛盾は脚本の不備」という指摘もありましたが(その可能性もあるかと思います),辻褄が合うように知恵を絞ってみるというのも面白かったです。