開催記録|人工知能と心理学について、現職ITコンサルタントが思うところ@オンライン

開催記録|人工知能と心理学について、現職ITコンサルタントが思うところ@オンライン

 先日,「人工知能と心理学について、現職ITコンサルタントが思うところ」をオンラインで開催しました。

 昨今の人工知能の発展は目覚ましいものがあります。人工知能とは”人工”知能とあるように,人間の知能を人工的に創造する試みであったわけですが,その試みは翻って,人間(知能)とは何かという問いも発生させます。

 人工知能について考えることは,私たちの人間の見方を再考させるきっかけとなりえます。

 前回の研究会の目的は,そもそも人工知能とは何かという初歩的なところから学びつつ,「人間(心)とは何か」を考える時間を作ることでした。 以下はそのときの記録です。

研究会詳細

参加者:9名
開催日時:2021年5月18日(土)
開催時刻:15時〜18時30分

発表者

金井雅仁
──
博士(心理学)を取得後,民間企業でITコンサルタント業務に従事。

概要

「機械学習や人工知能は人間に対する理解を拡張するのか、また心理学はどのように拡張可能なのか」

 この問いに対し、心理学を修めてから機械学習・人工知能の世界に入り込んだ発表者がお話をさせていただく。

 第一部では、人工知能・機械学習・深層学習とはどのようなものなのかを紹介しつつ、興味深い昨今の事例を紹介する。レクチャー的な内容になり、事前知識のある方にとっては退屈になることが予想されるが、要点をかいつまんでお話したい。

 第二部では、機械学習・人工知能関連の技術・知見を活かすことで人間の捉え方・心の理解の仕方を広げることが出来るのかを皆さんと議論したい。発表者は「コンピュータモデル的な解釈を進めるために有益な知見を多くもたらすが、特別新しい視座はもたらさないもの」と考えており、立場の異なる皆さまと楽しく議論したく考えている。

 第三部では、機械学習・人工知能関連の技術を使うことで心理学をどのように拡張させられるかを議論したい。発表者は「可能性を秘めてはいるが、①心理学者の能力で扱いにくい、②データ量という致命的な課題があると考えており、取り入れるならば心理学の従来的な考え方を変えた方がよい」という考えであり、ここも皆さまと楽しく議論したい。

当日の流れ

 当日はまず「人工知能にはどのようなイメージがあるか?」という問いから始まりました。人工知能にはときに過大なイメージが付与されていますが,まずはそのイメージを言語化する営みから始まりました。その後,人工知能と機械学習,深層学習(ディープラーニング)の関係(位置づけ)が紹介されました。人工知能には定まった定義は存在しないこと,ただし,「人間のような知能をコンピュータに持たせる技術」という方向は類似していること,そのような技術の一つとして機械学習があり,その一類型としてディープラーニングがあることが説明されました。心理学者は実はすでに機械学習を行っているのではないかという興味深い議論もありました。

 それらの技術は果たして人間の理解を促進するのかという大きな問いに対して,発表者である金井さんからは「認知主義的理解にとっては有益であり,知覚・認知領域には拡張可能であろう。しかし,それ以外の領域にはなかなか難しいのではないか。」という主張がなされました。その理由として,①インプットデータはなにか,②どのような内部処理がされるのか,③どのようにアウトプットが発生するのか,という3つの観点から,拡張の難しさが説明されました。それに対する侃々諤々な対話の応酬があり,最終的に,もしかしたら発展をもたらすかもしれないし,そうではないのかもしれないという新たなゆらぎが生まれました。(クオリア構造という最新のトピックも飛び出しました。)

 最後に,人工知能・ディープラーニングは,心理学にとって使い方によっては利用価値が高いものの,現在の心理学教育においては扱うスキルを培えないこと(プログラミングスキル,インフラ・サーバー周りのノウハウが必要であること),心理学の現在のデータ収集法(質問紙や実験)では現実的でないこと(データ収集に対する発想の転換が必要であること),費用負担の高さから個人単位では厳しいことといった課題が論じられました。人工知能を心理学に活用していくには学界単位での動きが必要なのかもしれません。

 今回は規定の時間を超えたエクストララウンドもあり,心理現象に数理モデルを当てはめる是非や,Direct Fitという考え方についてなど,ざっくばらんに対話する時間も作れました。今年度の研究会の目標である,対話型思考(お互いに考えていることを共有しながら,考えを発展させていく)のモデルケースとなるような,刺激的な会となりました。

参考資料

次回の研究会

 次回以降も引き続き,お互いに考えていることを共有しながら考えを発展させていく対話型思考の研究会を開催していきたいと思っています。

 次回の公開研究会は,7月18日(日)に「『測りすぎ』を読む」というテーマで開催します。次回の研究会では,話題提供者を募集しています。詳細はこちらをご確認ください。

 参加をご希望なさる方は仲嶺(abcdigroom[at]gmail.com)までお知らせください。★[at]→@

 ともに考えられることを楽しみにしています。