想い出は人工物に宿る

想い出は人工物に宿る

人はなぜ元カレ/元カノを引きずるのでしょうか?

答えは至ってシンプルです。「想い出は人工物に宿るから」です。

そう言われても「?」だと思います。順に説明させてください。

たとえば,元交際相手と初デートで行った場所にたまたま訪れたとき,「あぁ,あの人と昔ここに来たなあ」と思い出すのではないかと思います。思い出しているのは自分ですが,思い出させたのは「場所」(人工物)です。

たとえば,元交際相手の職業が警察官であったとき,街中でパトカーを見かけたら,「あぁ,あの人はいまどこにいるんだろう」と思うかもしれません。ここでも,思い出しているのは自分ですが,思い出させたのは「パトカー」(人工物)です。

私たちは,想い出は自分の心(頭)の中にあると思っています。このことは,「想い出は個人的な体験である」という意味ではその通りです。

しかし,想い出を思い出したり,忘れようとしたりするのは自分次第であるという意味では間違っています。上の例で書いたように,想い出は人工物とともにあり,自分だけのものではないからです。

元カレ/元カノを思い出さないようにするために,想い出のモノが目につかないよう,あるいは,耳にしないようにするのはこれ(想い出は人工物とともにあること)が理由です。ドルチェ&ガッバーナで元カノを思い出すのもこれが理由です。

ところで,「想い出の場所に行ったり,パトカーを観たりしなくても,元カレ/元カノが忘れられないときもある!」という方もいるかもしれません。すなわち,「想い出す特別なきっかけはないけど,心の中に元カレ/元カノの存在がよぎってしまう」という場合です。

おそらくその方は「日常」に想い出が宿っているのでしょう。元交際相手との連絡時間(普段通りなら仕事終わりの20時に連絡がきていたなど),元交際相手と帰宅した帰り道(デートの後にいつも通っていた駅からの帰り道など),元交際相手との何気ない話(昨日の朝ごはんはエッグベネディクトだったなど)など,日常の至るところに元交際相手の痕跡があるのだと思います。だから,「特別なきっかけがなくても思い出してしまう(元カレ/元カノが忘れられない)」のだと思います。

「昔の恋を忘れるには,新しい恋」ということはよく言われます。新しい恋(人)を見つけて,元カレ/元カノへの未練を断ち切ろうということです。

たしかに新しい恋(人)を見つけることで,未練を断ち切れるかもしれません。ですが,それは「新しい恋(人)を見つけたから」ではなく,「人工物の意味を上書きしたから」です。

たとえば,「元交際相手からは20時頃に仕事終わりの連絡があった」人が,新しい恋の相手とは「20時からは電話」することになったとします。その場合,この人にとって「仕事終わりの連絡時間」という20時の意味は,新しい恋(人)の存在によって「電話の時間」に上書きされています。

たとえば,失恋の相談をしているうちにだんだんと相談相手に惹かれるみたいなことがあります。これは,相談という状況(これも人工物)が,別の意味(楽しい会話など)に上書きされたからです。

このように私たちの思い出は人工物に宿っているため,その人工物が身の回りにそのままあるうちは,その想い出を忘れられず,元交際相手を引きずってしまいます。しかし,その人工物の意味が上書きされる,すなわち人工物から想い出が離れると,その人工物と出会っても想い出を思い出すことがなくなり,未練がなくなったという状態になります。

したがって,元カレ/元カノを忘れるためには,人工物の存在そのものを意識させないようにするか,人工物の意味を上書きすることが必要です。新しい恋でもいいですが,新しい恋である必要はまったくありません。

たとえば,「特定の場所」に想い出が宿っているのであれば,その場所に行かないようにすることは一つの手です(よく取られる手段だと思います)。あるいは,友達と行ったり,その場所に行くまでのルートを以前と変えてみたりなど,新しい意味をつくる活動をするのも良いです。

たとえば,「特定に日付」に想い出が宿っているのであれば,その日を無きものにすることはできないので,その日に特別なことをして別の想い出を作ることが一つの手です。

以上のように,なにかの活動をすることで人工物に新しい意味を上書きでき,元カレ/元カノの未練を断ち切れる可能性が高くなります。

ちなみに,たとえば,上書きをしようと思って「特定の場所」に行ってみたら余計に思い出してしまったみたいなことが起こりうるかもしれません。その場合は,新しい活動が過去の活動と類似していた可能性があります。たとえば,元カレ/元カノとデートで行った場所に新しいデート相手と行ってしまい,元交際相手を思い出してしまったというような場合です。これは活動の類似性が意味の上書きを妨げていますので,この場合はまったく違った種類の活動(たとえば,デートではなく友達と行く)の方が良いでしょう。

あるいは,そもそも,無理に忘れる(無理に未練を断ち切る)必要もないので,未練があることを認めて,その状態を信頼できる人と共有する(話す)ことも未練を断ち切る一つの方法です。

未練を断ち切ろうと思ったら「人工物に新しい意味を上書きする」。頭の片隅に置いておいてもらえると嬉しいなと思います。