過去と転職

マコトとアオの話。
マコトが仕事を辞めた。いろいろな理由があるみたいだけど,決定的な理由はハラスメントらしい。
やめようと決意したマコトは就職活動を始めた。仕事のツテを頼って始めた就職活動は,それまでのマコトの功績もあってトントン拍子に決まったようだ。おかげでマコトは失業期間なく,次の仕事へとスムーズに転職できた。
アオも仕事を辞めた。理由は「きちんとした職に就くため」。アオは(正規雇用の話が流れたため)その職場で非正規で働き続けていたが,いつまでたっても次の正規雇用の話がこないため,転職を決意した。
「自分を奮い立たせるため」に辞表を出して転職活動を始めたアオだが,退職日になっても,退職から1年経っても次の職が見つかっていない。失業期間は継続中だ。
マコトは大卒,実家は一軒家。大学を卒業後しばらくは仕事をしていなかったけど,その後,正社員になり,それなりの実績を残した。そして,転職活動もスムーズに進んだ。
アオは高卒。実家は集合住宅。卒業後,東京に就職したけど,うまく馴染めず地元にUターン。その後,非正規で仕事を続けていた仕事を退職し,転職活動は難航している。
マコトは転職して地元を去る。転職先はマコトを大歓迎しているらしい。マコトも「前の職場より必要とされてる感じがして,やる気でるわ」と言っていた。
アオは地元での転職活動を続けている。地元を離れるという選択肢はない。「安定する仕事を探してるけど,なかなか見つからないわ」と言っていた。
マコトは正規の職についていたおかげで,仕事の実績も作れたし,ツテもできた。頑張れば転職も首尾よくいった。
アオは非正規の職についていた関係で,頑張っても転職活動が報われない。「自分の人生を否定されている気分」になっている。
何らかの活動をして,うまくいくときとうまくいかないときがある。その分かれ目が過去の活動の「成否」に影響される。そして,過去の活動の「成否」は社会が前提とするシステムに依存する。そのシステムが正しいという保証はないのに,そのシステムによってあらかじめ判断された「成否」がいつまでもまとわりつく。
何か行動を起こしたからといって何かが必ず変わるわけではない。変わるために事前に何かが必要なら,行動を起こすことに何の意味があるのだろうか。
あるタイミングで起こす行動がこれまでの活動に影響される。そのときの行動をどう考えていけばいいのだろうか。
マコトは新しい職場でおそらく活躍するだろう。転職活動が契機となり,マコトはこれからますます成長するに違いない。
アオはまだまだ転職活動が続くだろう。活動意欲はいつまで保てるのだろうか。その意欲が保てなくなったとき,アオはどうなり,周りからどのように扱われるだろうか。
数年前,アオは正規雇用を目指してはつらつと仕事をしていて,マコトは職場の抑圧に苦しみながら仕事をしていた。今では,マコトが未来を見据え,アオが現状に苦しんでいる。
(個人が特定されないように話に多少の修正を加えています)
-
前の記事
統計的差別 2020.07.10
-
次の記事
読書感想|ジェンダー論をつかむ 2020.07.14