備忘録|査読についての説明

備忘録|査読についての説明

研究者の方にはお馴染みの査読。でも,経験のない人には「査読って何?」「査(しらべて)読(よむ)?」「どういうこと?」というように,よくわからないことかと思います。

最近,研究職でない人(査読経験のない人)との共同研究の成果を論文化していました。そのときに「論文を書くこと」(学術的な報告書を書くイメージ)は説明するとわかってもらえるのですが,査読についてはいまいちピンときてもらえませんでした。

ですので,査読とは何かについて説明できるように,簡単にまとめておきたいと思います。

査読とは制度である

査読とは「ある人によって提出された論文に対して同業者あるいは専門家が評価・意見すること,あるいは,その制度」です。言葉にするとなんか簡潔なように思えますが,具体的なイメージがどうもわきにくいみたいですので,以下で具体的にこの制度について説明してみます。

Step1:論文を書く

査読を受ける,すなわち,論文を同業者に評価・意見してもらうためには,まず論文を書かなければなりません。心理学では調査・実験・観察など“人間”から何らかのデータを取って分析し論文を書くこともあれば,メタ分析の結果を論文にしたりすることもあります。そのほかにも,多くはないですが,心理学の歴史について論文を書いたり,何かしらの理論(特定の現象に関する理論や人間の捉え方などのメタ理論)について論文を書くこともあります。

いずれにせよ,何らかの研究をして論文を書くことが査読への第一歩です。

Step2:投稿する

論文を書いたあとはどうやってその論文を公表するかを決めます。論文を公表する方法は究極的には何でもOKです。たとえば,自分で印刷した紙媒体の論文を路上で配ってもいいですし,ブログで公開してもいいです。

しかし,査読を受けた上で公表するには,一通りの方法しかありません(私が知る限りでは)。学術雑誌と呼ばれる研究者の書いた論文を掲載する雑誌で公表する方法です。たとえば,『Nature』『Science』などは学術雑誌です。

学術雑誌にもいろいろありますので,自分の書いた論文をどの雑誌に載せたいかを決めます(雑誌の種類と決め方はいろいろ,割愛します)。雑誌が決まったら,その雑誌の編集部宛に自分の論文を送ります。たとえば,『心理学研究』に載せたいと思った場合,電子システムを利用して,自分の論文を送ります。この手続きを投稿といいます。

Step3:査読(n回目)を受ける

投稿が終わったら,投稿者(私)は数ヶ月の待機です。その間,編集部ではおおよそ以下のことが起きています。

編集委員は,送られてきた論文を読み,その論文がどういう領域かを判断します。たとえば,「人はなぜ恋をするのかについて質問紙調査で調べた」論文であれば,「恋愛」「調査」「社会心理学」などの領域があてはまりそうなどと判断します。

領域を決めたら,その領域の専門家の人へ論文を送ります。「恋愛」なのでラブ先生,「社会心理学」なのでソーシャル先生みたいな感じです。編集委員から論文が送られた専門家の人は査読者と呼ばれます。ちなみに,査読者には論文の著者が誰であるかは隠されます。すなわち,誰が書いたかわからない論文を査読者は読むことになります(隠さない雑誌もあるかもしれませんが,心理学系の雑誌はほぼ隠されます)。

査読者(ラブ先生とソーシャル先生)は,編集部から指定された期日以内に,送られてきた論文を読み,専門家としての意見を述べるとともに,雑誌に掲載される価値があるかどうかを判定します。査読者は意見と判定(だいたい4~5段階)を報告書にまとめ,編集委員に送ります。

査読者全員から報告書を受け取った編集委員は,報告書を勘案し,その論文の評価を下します(このときに編集委員会というのもある,詳細は割愛)。評価が決定したら,その評価とともに,査読者の意見を報告書にまとめ,その報告書を投稿者に送ります。

以上が数ヶ月の待機の間に編集部で起きていることです。投稿者は,しばらく待った後に,編集委員から報告書が送られてきます。

投稿者宛に送られてくる報告書には,コメントともに評価が記載されています。評価はおおむね3種類です。

(1)「雑誌に載せてもOK」(採択):投稿した雑誌で論文が公表されることが約束されます。報告書をもらった数ヶ月後の雑誌に自分の書いた論文が載ります。

(2)「そのままでは無理」(修正):今のままでは雑誌に載せられないので,コメントをもとに修正してもう1回投稿してください,という評価です。この場合,改めて査読を受けることになります(n+1回目の査読を受ける)。査読を繰り返し受けた結果,採択になれば雑誌に論文が公表されます。不採択(以下の(3))になることもあります。

(3)「雑誌に載せられない」(不採択):投稿された論文は雑誌に載せられないという評価です。その理由は報告書のコメントに書かれています。この場合,Step2からやり直しです(別の雑誌に投稿)。

まとめ

以上が査読です。1回1回の査読者の意見や判定のことも査読と言いますし,この一連のプロセスのことも査読と言います。このような査読を受けて公表された論文は「査読付き論文」と呼ばれ,ある程度の信頼性が確保されます。自分の書いたら論文(=研究)が妥当なものなのかどうかを専門家に見てもらう,ある意味お墨付きをもらうために査読を受けているとも言えるかと思います。

ちなみに,少し前に「ABC予想を京都大の望月先生が解いた!」と報道されましたが,査読に7年半かかったとのこと。投稿者も査読者も大変だっただろうなあと思いました。